特定道路による容積率の緩和
はじめに
不動産調査業務のチェックを多数経験してきた中で、多くの人がその適用の可能性を忘れてしまう、あるいは制度の仕組みを完全に理解できていないものの一つに、特定道路による容積率の緩和があります。あらためて、この制度の基本的な仕組みを考えて、どのような場合に特定道路による容積率の緩和が生じるか考えてみましょう。
特定道路による容積率の緩和とは
前面道路による容積率の低減
特定道路による容積率の緩和の前に、前面道路の幅員による容積率の低減について解説します。都市計画では用途地域に応じて、一定の数値からその地域の容積率も併せて決定することとなっています。
もちろん、この都市計画で決められた容積率のすべてを消化できるとは限りません。都市計画で定められ容積率は、あくまでも上限値であり、前面道路の幅員によって減少する場合があります。つまり、前面道路の幅員が狭い場合は、容積率を最大限に使用することはできない仕組みになっています。
前面道路による容積率の低減係数
通常、前面道路による容積率の低減係数は、
①住居系用途地域の場合、 4/10
②その他の用途地域の場合 6/10
③都心区部に一部存在する 8/10の区域となります。
したがって、第一種住居地域で指定容積率が200%であったとしても、前面道路の幅員が4mの場合、使用できる容積率は160%となります。(4m×4/10=160%)また、商業地域で指定容積率が400%であっても、前面道路の幅員が6mの場合、使用できる容積率は360%となります。(6m×6/10=360%)
特定道路による容積率の緩和
特定道路による容積率の緩和は、前面道路による容積率の低減がある場合であっても、前面道路の幅員が6m以上であって、かつ幅員15m以上の特定道路までの距離が70m以内である場合に、指定容積率を上限として、前面道路の幅員を加算して基準容積率を求めることができる仕組みとなっています。
すなわち、前面道路による容積率の低減がある場合であっても、広幅員道路に近接している場合は、前面道路の幅員にボーナスを加えて容積率を回復する制度といえます。
したがって、特定道路による容積率の緩和が生じうる基本的な条件は、次の3つとなります。
① 前面道路の幅員が6m以上
② 前面道路による容積率が都市計画で指定された容積率よりも低い
③ 70m以内に特定道路(幅員15m以上)がある。
緩和の可能性がある都市計画の組合せ
それでは、上記の3要件が生じる可能性のある用途地域と容積率の組合せを考えてみましょう。そうすることにより、無駄に思考を巡らせる必要がなくなります。
仮に前面道路の幅員が6mであった場合、①住居系用途地域では240%、②その他の用途地域の場合360%、③東京都区部の一部で定められている係数8/10の区域においては480%が、都市計画で定められた容積率より低いことが必要です。そして、都市計画で定めることのできる容積率は法律で定められており、容積緩和が生じる可能性のある組み合わせは、自ずと下記の3パターンに限られます。
① 住居系用途地域の場合は、指定容積率300%以上
ただし、住居系用途地域で指定容積率が300%の区域は、実務上はあまり存在しないものと考えられます。
② その他の用途地域の場合は、指定容積率400%以上
商業地域で指定容積率が400%という組み合わせは多数存在しています。工業系の用途地域では、準工業地域は300%あたりを上限としている市区町村が多いと思われます。
③ 前面道路の容積率の低減係数が8/10の区域の場合は、指定容積率500%以上
用途地域は、もちろん商業地域となります。指定容積が500%を超える場合は、むしろ低減係数を必ず確認することが必要といえるでしょう。